(113) 消えゆくローカル線を惜しむ
三江線沿線の樹々

中国地方を横断して走っていた三江線が遂に廃止となりました。100kmを超す大ローカル線の廃止は、本州では初めての事であり、当初の部分開業から88年、全線開通からわずか43年のあまりにも悔やまれる廃線でした。
三江線は広島県・三次市と島根県・江津市を結び、江の川(ごうのがわ)沿いに走る全長108kmの鉄道で、江戸時代から続いていた江の川水運に変わる交通手段として、沿線住民の期待に応えて来ましたが、過疎化とモータリゼーションによる乗客減には勝てず、ついに2018年3月末でその歴史の幕を閉じました。
江の川に沿い中国山地の山々をぬうように走る沿線には、豊かな自然とあふれるばかりの樹木が育ち、線路は廃止されてもこれら樹木はいつまでも存続し、三江線を偲ぶ縁となることでしょう。

 

   (113-1) 天空の駅

 三江線の中ほどにトンネルを抜けるといきなり高架橋があり、その高架橋の上に宇都井駅があります。高さ20m、116段の階段を上らないと行けないこの駅は、鉄道マニアの間では天空の駅として有名でした。

 中国山地のなだらかな山々に広がる、春の新緑や秋の紅葉、天空の駅からながめる雄大な樹木景観はさぞ素晴らしかったことでしょう。

 

  

 (113-2) 潮駅の桜並木
宇津井駅から江の川の流れに沿って3駅進むと潮駅があります。海岸でもない山の中にどうして潮駅が? 潮の名もまた鉄道マニアの関心を引く名前です。この地域に塩分が濃い温泉が湧き、潮温泉と呼ばれ、それがもとでこの地域が潮村となり、駅名も潮駅となったのです。
 
潮駅近辺では三江線と国道375号線が並行して通っており、国道に整備された桜並木は列車からも間近かに見ることがで、花の時期には三江線屈指の人気スポットでした。ゆったりと流れる江の川を眺めながら、延々と続く桜並木の中を走るローカル線の旅は、鉄道マニアにとって垂涎の的でした。樹齢30~40年の桜並木はこれから益々素晴らしくなるところでした。

 

 (113-3) 因原駅のラストラン

 潮駅から10駅下ると因原駅があります。

 2018年3月31日、三江線の最後の日、因原駅にはラストランを見ようと多くの人が集まっていました(左写真上)。因原駅にこんなに多くの人がいるのは何年ぶりでしょうか。開通祝いの時以来か? 出征兵士を見送った時以来か?

 例年だともっと遅い桜の花が、この年は珍しく早く咲き、三江線最後の日満開を迎えていました。三江線のラストランを見送りたいという気持ちは桜も変わりないのでしょう。

 翌日4月1日、因原駅に行って見たら、人っ子一人も無く、もちろん列車の姿も見当たりません(左写真下)。本当に三江線は無くなったのだなと、悲しみがこみ上げてきました。

 しかし桜の木は昨日と変わらず咲き誇り、「線路は無くなっても、私たちはズーットここにいますよ」と言っているかのようでした。

  

  (113-4) 車窓に見えたムクノキ巨木
中国地方一の川で「中国太郎」と呼ばれる江の川は、その流域に平野がありません。江の川の流れに沿って走る三江線にとって、流れの向こうに広がる川岸の緑と背後の山並みの緑が織りなす樹木景観が最大の魅力でした(下写真左)。
因原駅から4駅下った川戸駅付近の対岸に、ムクノキの巨木があり、汽車の窓からも良く見えていました(上写真右)。
江の川の悠久の流れと共に生き、樹齢500年を超えていると思われるこのムクノキ巨木にとって、三江線の開通から廃止の88年の歴史はほんの一時のできごとでしょう。

  

   (113-5) 三江線最後の江津本町駅

 江の川に沿って三江線を下り、最後の駅が江津本町駅です。かつて江の川を利用した水運が盛んだったころの中心の地です。 写真右端に見えている橋の向こうはもう日本海です。

 高校生だったころ、通学でこの駅を通過した時、汽車に覆いかぶさるようにして桜の花が咲いていたことを思い出しました。

「ローカル線廃して山河あり。沿線、春にして草木ふかし」

 三江線は無くなってしまいましたが、沿線の樹木はいつまでも存続し、私たちをいつまでも魅了し続けることでしょう。

  

  樹木写真の属性
 樹  種 ソメイヨシノ(染井吉野) [バラ科サクラ属]
ムクノキ(椋の木) [アサ科ムクノキ属]

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 樹木の所在地 島根県江津市、川本町、三郷町、邑南町  
 撮影年月   2018年3月,4月
 投稿者 木村 樹太郎
 投稿者住所 島根県邑智郡川本町
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