(125) フジと共生して地域のシンボルになった
浜田・伊木八幡宮のイチイ樫
浜田市郊外の神社に、この地方では珍しいイチイガシの大木が立っています。珍しいと言うことは気候・風土が必ずしも適してはいないことを意味し、その上、巨大な藤蔓に絡みつかれる困難を抱えていながら、これら困難を乗り越え、樹齢800年余の巨木に成長し、地域のシンボルツリーになています。

    

  (125-1) 圧倒される巨木
イチイガシ(一位樫)の大木は伊木八幡宮の社殿に覆いかぶさるように立っており、そのそばに近付いて見ると幹の大きさに圧倒されます。記録によると幹周り5.0m、樹高20.5m、推定樹齢800年です。
イチイガシは数ある樫類の中で最も大木になる樹種であり、この伊木八幡宮のイチイガシも期待に違わずすばらしい巨木に成長し、浜田市の天然記念物に指定されています。
イチイガシは主に太平洋側の暖地に生育しており、ここ山陰地方では珍しい樫ですが、これは伊木八幡宮が昔、大分県の宇佐八幡宮から勧請されたことにちなんで、持ち込まれ植栽されたものと思われます。
 
幹もスラリと伸びた美しい巨木に育ち、何の問題もないかのように見えますが、実はこのイチイガシ、大きな問題を抱えています。上記写真のイチイガシの右後ろに、かなり大きな木が写っていますが、実はこれが藤蔓(フジツル)で、この藤蔓がイチイガシの木に巻き付いているのです。

  

(125-2) 巨大な藤蔓
背後に回って見るとイチイガシから5~6m離れたところに藤があり、その藤蔓の巨大さに2度ビックリさせられます。幾本もの藤蔓が縄を綯ったかのようによりあわさり、巨大な藤蔓になっています。幹周り2.3m、樹齢は数百年以上と推定され、これほど巨大な藤は貴重であり、こちらも浜田市の天然記念物に指定されています。
一般に藤蔓が他の木に巻き付くと、巻き付かれた木はジワジワと幹を締め付けられ、長年かけて絞殺されてしまいます。また藤蔓の成長は非常に早いので、巻き付いた木の樹冠を藤の葉が短期間に覆いつくし、巻き付かれた木は日光を藤に横取りされ、成長を阻害されて大きな打撃となります。とにかく、樹木にとって藤は百害あって一利なしの大敵です。

     

 (124-3) 藤に絞殺されずにすんだイチイガシ

 近づいてよく見ると、この藤蔓はイチイガシの幹には巻き付かず、左写真のようにかなり高いところの枝に巻き付いています。どうしてこんなに高いところに巻き付くことができたのか?  おそらくかなり以前には藤の近くにもい一本別の木があり、藤蔓はまづこの木に巻き付いて高い位置まで登り、そこからイチイガシの高い枝にとりついたのではないかと思われます。藤蔓に巻き付かれたもう一本の木は枯れて無くなり、現在の様な姿になったと考えられます。
 幹に巻き付いていないことはイチイガシにとっては不幸中の幸いと言うべきでしょう。幹に巻き付かれると幹にくびれが生じ、幹が弱くなり早晩その木は倒れてしまいますが、幹に巻き付いていないため、このイチイガシは現在まで生き延びることができたのでしょう。
 藤蔓に絞め殺されずに済んでいるとは言え、藤の葉が樹冠を覆って日光を横取りされているので、イチイガシにとって困った状況であることには変わり在りません。

  

  (124-4) 地域を見守るシンボルツリー
少し離れた所から見ると、伊木八幡宮前に立つイチイガシが勢いよくそびえ立つ様がよくわかります。この地域のどこからもその姿を見ることがで、イチイガシ巨木は地域のシンボルツリートなっています。特に5月末から6月にかけ、花の時期にはイチイガシの樹冠全体を薄紫色の藤の花が覆い、感動的な景観となります。昔は、この藤の花を見て地域の人たちは田植えの準備を始めたそうです。
 
イチイガシにとって百害あって一利なしの藤に思えたのですが、花も地味で紅葉もないイチイガシに藤が彩を添え、人々がそれを愛でる、大きな利があったのです。
イチイガシが巨大な藤棚をつくり、藤はそれにすがって美しい花を咲かせ、地域の人々はそれを愛で大切に守り育てる。藤と共生するイチイガシ巨木は地域のシンボルツリーとして、素晴らしい姿をいつまでも見せてほしいと願わずにはおれません。

  

   樹木写真の属性
 樹  種 イチイガシ(一位樫)[ブナ科コナラ属]
ノダフジ(野田藤)[マメ科フジ属]

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 樹木の所在地  島根県浜田市金城町七条ロ415 
 撮影年月   2018年8月
 投稿者  (1)岡本修治
 (2)中村 靖  
 投稿者住所  (1)島根県浜田市金城町
 (2)横浜市都築区中川中央
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