(119) 廃止ローカル線の後を追い逝った
川本町・木路原天満宮のムクノキ

島根・川本町の天然記念物に指定され、このホームページでも紹介した木路原天満宮のムクノキ巨木が倒れたとのうわさを聞きました。このムクノキは環境庁の巨木林調査でムクノキとしては全国でもベスト10に入る貴重な巨木ですが、大きな藤ツルが巻き付いており心配していましたが、こんなに早く倒れるとは思ってもいなかったので驚き、急ぎ様子を見に行きました。

 

 (119-1) 横たわるムクノキ巨木

 来てみると木路原天満宮祠前に立っていたムクノキ巨木は根元から折れ、完全に倒伏していました(左写真の左側)。 樹木の下にある天満宮の祠が無傷であったのは不幸中の幸いです。
 この木路原天満宮のムクノキについては3年前、「(66)藤と共生して巨木になった 島根・木路原天満宮のムクノキ」と題してこのホームページで紹介しましたのでそちらもご覧ください。
 このムクノキ巨木はただ大きいだけでなく、巨大な藤蔓が巻き付いていて、花の季節には木全体に薄紫色の藤の花を咲かせることも大きな魅力でした。

  

 (119-2) 藤ツルに苦しんだ跡
近づいて良く見ると、ムクノキ巨木は地上高さ2m位のところから折れ、外からは見えなかった空洞が顕わになっていました。幹には大きな藤ツルが巻き付き強く締め付けられていたのでしょう、驚くほど大きなこぶが出来ていました。幹にできた大きな空洞と大きなこぶは、ムクノキ巨木が長年藤ツルに苦しんだ跡をまざまざと見せつけられる思いがしました。
 
藤は他の樹木に巻き付きじわじわと締め付け、やがて巻き付いた樹木を絞め殺してしまうと言われていますが、このムクノキも例外ではあり得なかったかと思う残念な気持ちと、長い年月藤ツルに苦しみながらもよく頑張ってきたなと思う畏敬の念が沸き起こりました。

  

  (119-3) 木路原駅のホ-ムからも見えたムクノキ巨木
ムクノキ巨木のすぐそばをローカル線三江線が通り、すぐ近くに木路原駅(下写真左側)がありました。無人駅の小さなホームからもムクノキ巨木の姿が見え、ことに藤の花の時期には、樹冠いっぱいに藤の花を咲かせたムクノキの姿(下写真右側)は木路原地域のシンボルでした。
そのローカル線が今年の3月末で廃線となってしまったのです。すっかりその数は少なくなったとは言え、朝な夕なにゴトンゴトンと通る列車の音と駅に発着する列車の警笛の音を、地域の人々とムクノキ巨木は長年聞き、共に頑張ってきたとの思いは強かったのではないでしょうか。
列車の音も警笛も聞こえなくなった数か月後、まるで廃線となった三江線の後を追うかのようにムクノキは倒れたのです。
2018年3月末で廃線となった三江線については、同年5月にこのホームページで「(113)消えゆくローカル線を惜しむ 三江線沿線の樹々」と題して紹介していますのでこちらもご覧ください。

上記の写真撮影:2013年5月

  

  (119-4) 藤棚を押しつぶし倒れたムクノキ巨木
ムクノキ巨木は横にあった藤棚を押しつぶすように倒れていました。この藤棚は比較的最近作られたもののようですが、それでも樹齢数十年の藤が茂っていました。よりによってその藤棚を押しつぶして倒れていることは、長年巻き付かれ、苦しめられた藤に一矢報いたのでしょうか? あるいは長年連れ添った藤への惜別の情堪えがたく、これを道ずれとしたのでしょうか?
先に「廃線となった三江線の後を追うかのように・・・」と言いましたが、これは「後を追って・・・」と言うべきかも知れません。樹齢数百年を超える巨木には霊力が宿ると言われます。
長い間ともに生きてきたローカル線の最期を見届け、「ワシももうここらでよかろう」と最愛の藤を道連れとして逝ってしまったムクノキ巨木を目の当たりにし、巨木に宿る霊力をまた一つ見た思いがします。

  

  樹木写真の属性
 樹  種 ムクノキ(椋木) [アサ科ムクノキ属]

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地 島根県邑智郡川本町木路原
 撮影年月 2018年8月
(119-3)の写真は2013年5月
 投稿者 木村 樹太郎
 投稿者住所 島根県邑智郡川本町
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